社外では通常の携帯電話、
社内では内線電話として使用可能に
セントレックスと聞くと、IPセントレックスを連想する人が多いだろう。セントレックスとは、内線交換を行うための交換機を自分たちで保有せず、第三者によって提供される交換機能サービスを利用する形態を意味する。このIP版となるIPセントレックスは、自分たちでIP電話機とIPネットワークだけを保有し、セントレックスサービスを提供する通信事業者やインターネットサービスプロバイダー(ISP)に自分たちのIPネットワークを接続することで、内線どうしの交換や外線との接続を行う形態になる。もちろん、サービス提供者側にはSIP(Session Initiation Proto col)サーバが設置されている。
実は、20年以上前にも、ユーザー企業側がPBXを保有せずにNTTの交換機に電話機を直接接続し、その交換機で内線どうしの交換を行うサービスが提供されており、これをセントレックスサービスと呼んでいた。モバイルセントレックスでは、その電話機が携帯電話となり、PBXはもちろん、配線までもユーザー企業側が保有する必要がなくなるのである。
内線として使用する携帯電話は、社外に持ち出せば通常の携帯電話として使用できる。現在ほとんどの企業では、特に外回りの多い営業マンにとっては、携帯電話は必要不可欠な通信手段となっている。その携帯電話が、社内に持ち帰ったときに内線電話として使えるというイメージのほうがわかりやすいかもしれない。
モバイルセントレックスと言っても
構成は各社さまざま
一口にモバイルセントレックスと言っても、実際には、携帯電話会社によって形態がまったく異なる。また、内線専用の無線LAN電話端末を用いる方式もあるため、モバイルセントレックスとは何なのかがつかみにくい状況となっている。
KDDIは、社内・社外を問わず、すべての通話を携帯電話の通信方式で実現する「OFFICE WISE」というサービスを11月30日より開始する。現在使用しているauの携帯電話をそのまま使用できるのが特徴だ。内線として使用する場合は、社内にミニ基地局を設置するとともに、社内通話を交換するためのミニ交換機を設置する。社内に持ち込まれた携帯電話は、ミニ基地局経由でミニ交換機に接続する。内線どうしの通話はミニ交換機で交換されるため、外部にトラフィックが出ていくことはない。また、内線交換で必要となる転送やピックアップといった機能もミニ交換機で実現される。同社では、内線相互通話の通信料金を定額制とする計画だ。なお、社内から外線に発信する場合は、ミニ交換機経由で行われる。
この方式では、ミニ基地局やミニ交換機を設置するための工事が必要となる。そこでKDDIでは、au携帯電話を1,000台以上契約する法人ユーザーが対象になると発表している。だが、さらに小規模向けのサービス提供も計画しているようだ。
それに対してNTTドコモが提供する方式は、外線では携帯電話の通信方式だが、内線では無線LAN技術を使用し、SIPを用いたVoIP(Voice over IP)となる。この方式で使用する携帯電話は、本来の携帯電話による通信機能のほかに、無線LANによる電話機能も搭載する必要がある。したがって、両方の通信機能を搭載した端末を新規に導入しなければならない。
この方式の利点は、社内に無線LANのインフラとSIPサーバを構築するだけで済み、そのSIPサーバを用いれば有線のIP電話とも共存できることである。NTTドコモとしては、この機能を搭載した携帯電話端末をFOMAでのみ提供するようである。
一方、内線専用の無線LAN電話端末を用いる方式は、単にIP電話端末が無線LAN対応になったものと考えればよい。KDDIやNTTドコモが提供する方式ではある程度の初期費用が発生するが、運用開始後に発生するコストは基本的にサービス料金のみとなる。そのため、減価償却のようなものがほとんど発生せず、ユーザー数の増減にも柔軟に対応できる。しかし、内線専用の無線LAN電話端末を用いる方式では、自社設備を購入する形態となる。そのため、KDDIやNTTドコモが提供する方式のほうが、よりセントレックスということばに近いイメージとなる。
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