第一種通信事業者には
値引きが認められていなかった
電気通信事業法は、NTTの民営化と通信事業への新規参入が始まった1985年に施行された。当時は、通信インフラを構築できる通信事業者はごく一部の大手のみであり、簡単には新規参入できないであろうと考えられていた。通信インフラを構築するには、光ファイバなどを敷設したり、通信事業者向けの高価な通信設備を導入したりする必要があったためだ。
通信インフラを保有する事業者は第一種通信事業者と位置付けられ、あらゆる通信事業の根底を提供することから公益事業特権が与えられた。また、全国規模でサービスを提供しなければならず、サービスメニューは認可制とされた。
それに対して、通信インフラを保有せず、第一種通信事業者から借り受けることによって通信サービスを提供する事業者は、第二種通信事業者として位置付けられた。当時盛んにビジネスを展開していたVAN(Value Added Network)会社がまさにこれである。
ところが、通信のIP化という新しい潮流が生まれ、IP用のネットワーク機器の高性能化と低価格化、さらには光ファイバやメタル回線の借り受けが可能になるなど、第二種通信事業者は第一種通信事業者のメニューに拘束されることなく安価なサービスを提供できるようになった。また、第一種通信事業者への新規参入もしやすくなり、その結果として現在のような通信事業者間の“過当競争”に発展したわけである。
現行法では第一種通信事業者は値引きができないが、実際にはダンピングとも思えるような値引き合戦が行われている。第一種通信事業者は第二種通信事業者を子会社として持ち、そこからユーザーにサービスを提供する形で値引きを行っているのだ。
こうして第一種通信事業者にとって第二種通信事業者も競合相手になったことで、値引き競争に拍車がかかった。特に、第二種通信事業者が従来個人向けに提供してきたインターネット接続メニューを企業向けのサービスとして破格的な価格で提供を開始すると、企業向け回線メニューの価格は坂道を転げ落ちるように値下がりしていった。
価格設定時にも
総務省に説明する義務があった
もともと第二種通信事業者では、第一種通信事業者が行うような全国網のサービスは提供不可能だろうと考えられていたが、実際にはYahoo! BBのような全国規模のサービスを提供する新興企業が出現し、第一種通信事業者と対等またはより優位にビジネスを展開するようになった。
もともと第二種通信事業者は、第一種通信事業者のような公益性がないと考えられていたため、提供地域を独自に設定でき、ユーザー保護の義務もない。サービスメニューも自由に設定でき、しかも認可が不要なため迅速にサービスを提供開始できる。ユーザーの立場からは、Yahoo! BBとフレッツADSLのサービスは本質的にはほぼ同じように見えるが、このような事情があるため、法律上はまったく異なる土俵の上に成り立っているのである。
また、第一種通信事業者はサービスの価格を決める際、“原価に応じて適正であること”が求められる。要するに、総務省に対して「なぜこのような価格になるのか」を説明しなくてはならないのだ。そのため、一般企業のように“戦略的な価格設定”を行うことができない。
例えば、現在の市場規模では赤字になってしまうが、数年以内にユーザーが急激に増え、ある程度の規模になった時点で黒字になることが見込まれていたとしよう。この場合、一般企業なら、サービス開始当初から黒字となるような高めの価格設定ではユーザーを獲得できないため、あえて最初の1年間は赤字覚悟でスタートするというような戦略に出るだろう。しかし、第一種通信事業者は、この“あたりまえ”の戦略が採れないのだ。
これに対して、第二種通信事業者にはこのような制約がない。確かヤフーはYahoo! BBのサービス開始時、契約件数が200万に到達した段階で黒字になるとコメントしていたが、これこそが戦略的な価格設定である。それに対して、NTT東日本がBフレッツの値下げを行ったときは、光の多重度を4から8に変更するためコストが安くなるといったような説明を総務省に対して行っていた。
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