テレフォニアダプタを利用する
一体型のIPセントレックス
Part1で紹介したように、IPセントレックスサービスは、通信事業者のソフトスイッチに内線電話機能を組み込んだ一体型と、通信事業者のソフトスイッチと企業向けソフトスイッチを組み合わせた分離型の2種類がある。
一体型のIPセントレックスは、現状では専用のテレフォニアダプタを使用し、アナログの単独電話を接続する構成となる(図19)。このため、提供可能な付加サービスは、電話機のフッキング操作で利用可能なものに限定される。代表着信、ダイヤルイン、保留、転送、代理応答などの代表的な付加サービスはほぼカバーされているが、この構成でビジネスフォンと同等のサービスを提供できるようにするには無理がありそうだ。
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図19● 一体型のIPセントレックスは、専用のテレフォニアダプタを使用し、アナログの単独電話を接続する構成となる。このため、提供可能な付加サービスは、代表着信、ダイヤルイン、保留、転送、代理応答など、電話機のフッキング操作で利用可能なものに限定される。小規模なサテライトオフィスをたくさん持つ企業で主に利用されている |
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VoIP網側は全ユーザーがアクセス可能なオープンネットワークであるため、セキュリティ上の問題を考慮し、テレフォニアダプタに接続された電話機以外からはアクセスできないようになっている。つまり、LAN側のPCはVoIP網とは完全に分断され、IP電話機とPCは連係できないのだ。このように、一体型のIPセントレックスは、VoIP網をユーザー側のIP機器と分断することによってセキュリティを確保し、シンプルな機能を安価に提供するという性格のサービスである。
SIPフォンを利用する
分離型のIPセントレックス
内線電話機が10台以上あるような規模のオフィスでは、複数の局線ボタンを搭載したビジネスフォンのニーズが高い。このような環境にIPセントレックスを導入する場合には、SIPフォンを利用できる分離型のIPセントレックスが適している(Part1の図10を参照)。
この構成の場合、サービス提供者側はユーザーごとに異なるさまざまな要望に柔軟かつ迅速にこたえることが可能なため、電話役務として提供するサービスというよりも、むしろホスティングサービスを付加したシステムインテグレーションとしての色彩が強い。このため、これまでビジネスフォンの導入を行ってきた通信機器の販売会社の範ちゅうのビジネスであると言えるだろう。顧客からニーズをヒアリングし、最適な運用が可能なようにサポートする必要があるため、担当するSEにも高い能力が要求される。
NAT越えや安全性の問題が解決すれば
コンピュータとの連係が可能に
「ユーザー企業がPBXを保有しなくてもよい」というのがIPセントレックスの特徴だが、コンピュータとの連係機能まで提供しているサービスはまだ存在しない。VoIPの導入には、単なるコスト削減ではなく、コンピュータとの連係による高付加価値サービスが期待されているが、それを提供できるようになるまでには、NAT越えやセキュリティ対策など解決すべき問題がまだ多く残されている。
また、Part3で解説したようなIP網の信頼性を考慮すると、ソフトスイッチとPSTNゲートウェイをユーザー側に設置することが望ましい。通常はユーザー宅内のソフトスイッチがコントロールし、ここで障害が発生した場合にセンター側のソフトスイッチがバックアップするような構成が必要になるはずだ。
図20のようにユーザー用のソフトスイッチをユーザー側のローカルアドレス内に設置することで、LAN上のほかのPCとの連係も実現しやすくなる。これらの条件に合う機器の貸し出しと、全体の運用管理をサービスとして提供することで、高信頼で高付加価値のIPセントレックスが提供可能になるだろう。
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図20● ソフトスイッチをユーザー宅内に設置すれば、センター側のソフトスイッチをバックアップとして利用できる。また、LAN上のPCとも連係しやすくなる |
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特定の通信事業者に
囲い込まれないように注意
電話事業の開放により通信事業者どうしの競争が始まり、通信サービスの低価格化が進んだが、マイラインの登録完了に伴って落ち着きを見せた。その後、番号ポータビリティの制度化によって「0120」で始まるフリーダイヤルの電話番号をNTT以外の通信事業者に移しても変更されなくなり、通話料着信者払いサービスの通話料金も競争されるようになった。なお、番号ポータビリティは携帯電話への適用も検討されている。
IP電話サービスは、提携プロバイダー以外の相手に発信すると通話料金が発生するが、「050」に続く4けたの番号が電話会社によって分かれており、この番号によってIP電話サービス会社を使い分けることが可能だ。このため、PBXには最適ルート選択機能が必須となる。
このような状況において、PBXを不要とするIPセントレックスを導入するというのは、果たしてユーザー企業にとってよいことなのだろうか。企業の全回線を1社のマイラインプラスに登録するようなもので、その通信事業者に完全に囲い込まれることになる。それが通信事業者のねらいだろうが、導入前に十分に検討すべきである。必要に応じてよりよいサービスを提供する通信事業者に切り替える権利を保持していたいと考えるユーザーは、PBX(ソフトスイッチ)を残して複数のIPセントレックスサービスを利用できるようにしておくべきだろう。
IPセントレックス導入までの
プロセスは予想以上に険しい
IPセントレックスは東京ガスが全社規模で導入することを発表して話題になったが、それ以降は大掛かりな導入事例が聞かれなくなった。1社で構築するPBXビジネスよりも複雑なプロジェクトマネジメントが必要なことがわかったからだろう。
筆者は現在、全国100拠点以上、計2,000台弱のIP電話を接続するIPセントレックスの導入を進めているが、トントン拍子には進まない。ソフトスイッチとオープン仕様のPSTNゲートウェイ、IP電話機などを集めて仕様をすり合わせることは、実はたいへんな苦労がつきまとう。マルチベンダーであるだけに、システムインテグレーターが強いリーダーシップを発揮しないとなかなか進展しないのだ。さらに、各種サービスの開通調整は電話回線の比ではない。IPセントレックスを円滑に導入するためには、これらを経験し、乗り越えたインテグレーターとうまく付き合うことが秘けつであると言えるだろう。
本稿では、ユーザー企業の利用形態に合わせて、VoIP機器やサービスに求められる条件を解説したが、現状ではまだ、すべてのニーズを満たせるほど機器やサービスが整備されているとは言えない。しかし、IP網の問題点や通信サービスの値引き合戦が限界に近づいてきたことで、ようやくニーズと進むべき方向が見えてきた。VoIPというキーワードだけが先行してきた市場が、ようやく本格的な導入段階に入る日は近い。
第4回目で紹介したVoIP導入前に押さえておきたいポイント
(22)一体型のIPセントレックスは、小規模なサテライトオフィスをたくさん持つ企業には適しているが、既存のビジネスフォンと同等のサービスは提供できない。
(23)分離型のIPセントレックスは、多彩な要求にこたえることが可能であり、システムインテグレーションンの色彩が強い。
(24)現状では、IPセントレックスでコンピュータとの連係機能は提供できない。
(25)まだIPセントレックス導入のノウハウが蓄積されていないため、導入経験を持つインテグレーターに依頼することがお勧め。
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