「私もたたかれて育った」

 長男=当時(6つ)=への傷害致死容疑で、取り調べを受ける勢田知子(24)と夫の剛士(24)。長男が死亡したとされる約半年前の二月一日、二人はしつけの相談で西宮こどもセンターを訪れた。

 そばに長男の姿があった。全身に皮下出血。医師は全治一カ月の殴打痕と診断した。児童虐待として保護された長男は「お母さんにぶたれた」と話した。

 知子は長男が生まれて間もなく、実父の男性と離婚。以後、長男は実父の祖母らによって育てられた。知子が半ば強引な形で引き取ったのは、センターを訪れるわずか十日余り前のことだった。

 応対した職員に知子が漏らした。「このまま養育を続ければ、新聞をにぎわすことになる」

 両親と兄三人の家庭に育った知子。知人は「父親にたたかれて育った、と話していた」と振り返る。

 周囲から暴力の影が消えることはなかった。

 小学校時代の隣人は「兄と一緒に犬をけったり、包丁を持った兄に追い回されるのを見た」と語った。知子自身、学校で同級生の背中を刃物で切り付けた話が残る。

 知子と剛士の間には、二歳になる二男がいる。今春通い始めた保育園では、「はよせんかい」と声を荒らげて二男をたたく知子の姿が、たびたび見られた。

 四月、保育園の職員が自宅を訪れた。子育て観のずれを埋める目的だった。二度目の訪問で、知子が激しい口調で言った。

 「子どもに手を出すのはしつけの一環だ。私もたたかれて育った」

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 児童虐待は親から子、子から孫へと引き継がれる、という。

 長男=当時(6つ)=への傷害致死などで実刑判決を受けた山本香代(37)。二歳の時に両親が離婚、実父と義母、六人の異母弟妹の中で育った。同級生の目には、幼い弟の面倒を見るしっかり者と映った。

 神戸地裁姫路支部。法廷でその香代が言った。「父に暴力を受けて育った。子どもは、たたいてしつけなければならない」  しつけという名の暴力。最初の犠牲者は長女(11)だった。手を上げるのは主に夫の修(48)。香代は夫に告げ口し、「もっとしかって」と言った。

 「つめをかむ癖を止めさせようと体罰を与え始め、だんだんとエスカレートして(中略)、熱湯をかけたり、包丁や熱したフライパンを近づけて脅したり(中略)、足をけって骨折させたこともあった」(判決文)

 一九九八年に三男が生まれたころ、長女のつめをかむ癖が見られなくなった。しつけの矛先はいたずら盛りの長男に向いた。さらにエスカレートする形で。

 二人とも香代と前夫との間に生まれた子だった。せっかんがなぜこの二人に向かったのか。弁護士は香代からこう打ち明けられた。

 「子ども連れの再婚で、修の両親の目が気になった。きちんとしつけができる嫁だと思われることが大切だと思った。修が頼り。見捨てられたら終わりと思った」

 一人の女の顔が、そこにあった。(受刑者、容疑者呼称は省略します)

 

(掲載日:2001/09/22)

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