厚生労働省は十八日、出荷前のすべての牛を対象に狂牛病感染の有無の精密検査を始める。疑念を払しょくし信用回復を図る考えだが、これで安全は確保されるのか。政府の対策委員も務める東京大農学部応用免疫学教室の小野寺節教授に聞いた。

 ― 一連の狂牛病対策をどう評価する

 「世界一厳しい体制だ。FAO(国連食糧農業機関)の勧告では、牛など反すう動物を用いた肉骨粉の禁止と、食肉検査の徹底を対策の両輪としている。日本は鶏やブタも含めすべての肉骨粉を禁止し、全頭検査に踏み切った」

 「だが課題はある。例えば(検査能力を高めるため)現場の人をどうトレーニングするか。また次に感染牛を発見した場合どんな手続きをすべきかというシミュレーションも必要だ」

 ―日本での発生要因をどう分析する

 「病原体の型が一致しており、英国で発生したものが来たのは間違いない。肉骨粉を使う鶏などの飼料と生産ラインを共用したため、牛の飼料が汚染されていたという可能性は否定できない。ただ、ヨーロッパでも感染経路の解明は進んでおらず、日本も地道に調査を積み重ねるしかない」

 ―東京の狂牛病騒動では、一次検査で疑陽性が出る可能性が明らかになると共に、情報開示のあり方など課題を残した

 「検査時間が四、五時間と短く大量の検査に適したエライザ法と、(疑陽性だった場合の)結果の確定検査はワンセットで考えるべきだ。これから年間百三十万頭が検査される見込みだが、検査の仕組み上、単純計算すれば健康な牛の千三百頭が疑陽性と判定される」

 「ただ、その段階の発表は意見が分かれるところ。(疑陽性を)何百回も発表すれば消費者が慣れ、混乱に陥らなくなるとの考え方もあるが、ヨーロッパは陽性が確定してから公表している」

 ―政府は検査初日にも安全宣言を出す意向だ

 「個人的には、検査体制ができたから『安全です』というのはしっくりこない。ヨーロッパでは一、二万頭検査して一頭くらい狂牛病が出る。それぐらい調査が進んでからの方がいいと思う」

 ―消費者の不安はまだ強い

 「感染牛と変異型クロイツフェルトヤコブ病との関連性への不安だろう。可能性はゼロではないが、牛とヒトの『種』の違いという壁は高い」

 「例えば英国では十八万頭が狂牛病に感染したが。患者は五十万人に一人しか発生していない。日本と違い危険部位である脳をステーキやひき肉に使う習慣もあった。消費者はこれらを冷静に考えるべき。こうした情報も含め政府の広報活動強化が必要だ」

=おわり=

(経済部・狂牛病取材班)

(掲載日:2001/10/18) 


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