(掲載日:2004/07/27)
 
 企業の価値を判断する基準として、売上高や利益といった計数面だけでなく、環境、人権、文化といった分野での社会的貢献度を重視する「CSR」という考え方が広がり始めた。兵庫県内でもCSRを企業戦略として採り入れる例が増えている。地域の一員として社会にどう貢献するかを模索する企業の取り組みを追った。(原 康隆、小林由佳、藤嶋 亨、壱田和華子)

社会貢献 新しい尺度に

トーホー 担当役員を新設

 業務用食品卸と食品スーパーのトーホー(神戸市)は今年四月、CSR担当役員を新設した。初代担当となった取締役の中溝武夫さんは「利益を追いかけているだけの社、というイメージになってはダメ。自分は社員に、CSRへの取り組みを徹底する役割」と話す。

 とくに力を入れているのは、食の大切さを伝える“食育”。二〇〇二年十二月から〇三年六月にかけ、本社がある東灘区・魚崎地区の小学五年生百八十人に、春キャベツの栽培から収穫、店頭販売、調理などを体験してもらった。

 栽培から販売まで食のさまざまな段階を実際に学んでもらおうと、地元農家やホテルの調理スタッフも協力した企画。その後も小学生と家族を対象に農業体験ツアーも行っている。

 さらに特定非営利活動法人(NPO法人)と協力し、店舗の生ごみをたい肥として再利用する実験も推進中。開発途上国への産業支援を目的したフェアトレード(公正な貿易)の一環として、中米のグアテマラで有機栽培したコーヒー豆を輸入、販売している。

 このほか、離島支援で沖縄県のもずく、対馬のひじきなども積極的に扱う。中溝さんは「安全や環境、健康などのテーマに取り組み、顧客から信頼される会社になりたい」という。

神 鋼 「まずは法令順守」

 「CSRへの取り組みが市場の評価の対象となり、格付けや株価も左右する。株主にとっても最大の関心事だ」

 今年六月に神戸市内で行われた神戸製鋼所の株主総会。株主からの最初の質問に、松谷高志常務は「CSRの範囲は広いが、まず第一はコンプライアンス(法令順守)から」と強調した。一九九九年に発覚した総会屋への利益供与事件の反省から、神鋼は社内のコンプライアンス体制を整備。役員や弁護士で構成する常設の委員会を設けたほか、社員と外部の弁護士を直結する「内部通報システム」も確立した。

 さらに「企業倫理規範」を設け、法令順守にとどまらず顧客、取引先、社員、株主などの立場を尊重することを明記したほか、地域社会への貢献や環境保全のあり方も盛り込んだ。

 具体的な行動基準としては、廃棄物の削減やリサイクル、環境保全に関する社員教育の徹底などに取り組むとしている。

 また、阪神・淡路大震災の経験を踏まえ、地域社会と連携し災害発生時の救援・防災活動に積極的に取り組むことも明記している。

 CSR 企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)の略。利益の追求だけでなく、法律の順守、環境保護、人権擁護、労働環境、消費者保護などの社会的な側面でも企業が責任を果たすべき―とする経営理念。CSRを重視した企業への投資を SRI(社会的責任投資 Socially Responsible Investment)という。SRI投資のコンサルティング会社は世界で急増している。

楽器寄付、演奏会、スポーツ活動… 本業生かした取り組み

 本業に関連した商品やノウハウを生かし、音楽やスポーツなどの振興に取り組む企業も多い。

 音響機器のTOA(神戸市)は一九九九年から、本社併設の音楽ホールに地元の小学生らを招待し、民族楽器や邦楽の演奏会などを開いている。プロの演奏家による楽器の説明、演奏指導などもあり、これまでに約二十校、二千人近い児童が参加した。

 財団法人丹波の森協会(兵庫県氷上郡柏原町)が毎秋開催している丹波の森国際音楽祭にも、音響設備などを無償で貸し出す。同社は「イベントの運営費を出すだけでは、企業の個性は見えない。会社の施設や人材などの“資源”を活用することで、独自性を打ち出したい」とする。

 カーオーディオの富士通テン(神戸市)は、九四年に労使が共同出資で社会貢献基金を設立した。年四回のペースでチャリティーコンサートを開き、その収益を使い、小学校に楽器を寄付。基金を通じ、地域で市民らが開くコンサートなどにも資金面で支援している。

 アシックス(同)も、社員に地域のスポーツ少年団などへの積極参加を奨励。阪神・淡路大震災を教訓に、ボランティア活動に参加するための休暇を認める制度を導入するなど、社員の地域活動を後押ししている。

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