新潮流(5)
 
情報金融/中小支援へ ビジネス創造/県民の預金 県内で生かす

 「融資先の機械化を支援できないか」。加古川市にある「みなと銀行」の支店から、こんな情報が本店「企業サポート部」に飛び込んだ。同部は、すぐに新産業創造研究機構に話を持ち込んだ。機構では官民の技術者が中小企業への技術移転に取り組む。実現すれば融資先の収益増につながる。「以前は技術に興味を持つのは一部の行員だった。でも、今は前につなぐ仕組みがある」。部長の岩井幸夫(53)は新設されたサポート部の意義を強調する。「取引先が伸びれば銀行も伸びる。そのために何ができるかを考えたい」。中小企業と地域金融。新たな関係が始まろうとしている。

 「兵庫経済の不幸は、地域の中核銀行が無い点にあった」。みなと銀頭取の矢野恵一朗は、自戒をこめて振り返る。八七年から十年間、県内金融機関の総預金の伸びは八五%。対して融資は五九%。資金は県外に流れた。県民の預金を県内の産業に還流させる地域銀行の不在を裏づけた。

 そして、一九九五年八月の兵庫銀行、九八年五月のみどり銀行の破たん。震災で疲弊しきった中小企業を金融不安が襲った。

 やがて、金融再編のあらしは、世界をにらむ四つの金融グループを出現させる。浮き彫りになったのは金融機関の機能分担。再編が地銀、信金、信組に及ぶ中、地域金融機関の存在意義が問われている。

 みなと銀の企業サポート部は、“県民銀行”を掲げた九九年四月の再出発と同時に新設された。取引先のビジネス情報を支店から集約、それを結びつけ、新たなビジネスを提案する。

 技術的、資金的な課題があれば、新産業創造研究機構や県の新産業創造キャピタル制度につなぐ。同制度の投資は昨年四月から十二月までに二十四件。うち九件がみなと銀の紹介だった。

 今春には、得意先千二百社の親ぼく会「みなと会」のホームページを開設、新商品や技術情報を公開してもらう。地域に密着していればこそ得られる情報を新しい事業につなげ、資金需要を生み出す狙いだ。

 取り組みの背景には、厳しさを増す地域金融の事情がある。同行を子会社化したさくら銀行は、今春、住友銀行と合併し、三井住友銀行となる。世界をにらむ一方で、足元の強化も怠りない。

 昨年、企業向け営業を一新。債権流動化や資金運用などの金融商品を東京と神戸の法人業務部に集約した。「顧客の金融知識も深まっている。今後の金融機関は、こまめに往診する地域のかかりつけ医と高度技術を駆使する専門医に分かれる」と同行。「専門医」の地位を固めつつ、中小企業向け融資の新商品も開発。無担保・無保証人でも、最大五千万円の運転資金を申請後数日で融資する。地銀、信金も顔負けの速さには、データを駆使した審査技術の裏付けがある。

 情報技術を駆使して威力ます都銀。地域情報をテコに存在感を高めつつある地銀。信金、信組も対応を迫られ始めている。

 日新信用金庫(明石)は、県内信金で初めて取引先の私募債発行を引き受けた。尼崎信金は昨年、外部の研究所に職員を半年間派遣した。「融資審査の力を向上させ、企業の技術力や成長性を見極める目を養う」(総合企画部)狙いだ。

 信用金庫は営業地域や取引先の規模が法で限られている。「逆にいえば、地域を離れられない。だから地域の取引先が優秀な企業に育つのを支援する義務がある」と各信金は口をそろえる。

 体を流れる血液に例えられる金融。構造改革を急ぐ地域経済へ、いかに潤沢な資金を供給できるか。存在意義かけて地域金融機関の模索が本格化する。

 

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