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2004年11月19日

兵庫・鶴林寺の高麗仏画窃盗

事件こじれた犯人の「愛国」発言

 二〇〇〇年七月、兵庫県の鶴林寺から重要文化財の高麗仏画「阿弥陀三尊像」を盗んで韓国に持ち帰った文化財専門の韓国人窃盗犯二人が先月初旬、韓国検察によって逮捕された。犯人たちは検察に「日本に略奪された文化財を取り戻すために盗んだ」などと主張。これが大きく報道されたため事件の本質がゆがめられ、仏画の返還問題にも微妙な影を落としている。
(ソウル・武田滋樹)

「略奪された文化財取り戻す」/在日2世が返還訴え

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阿弥陀三尊像
 「略奪文化財 盗んで国内搬入」(YTN)、「検察、日本略奪“高麗仏画”窃盗一味摘発」(SBS)、「愛国窃盗? 日寺院文化財47点盗む…10億相当の高麗仏画を搬入」(朝鮮日報)、「日本に奪われ、韓国人が盗んで国内で販売 波乱万丈の高麗仏画“贓物(ぞうぶつ)帰郷”」(中央日報)

 韓国検察が容疑者二人を起訴した(十月十三日)ことを伝えるテレビや新聞は、いずれも犯人の主張をベースにして、「日本に略奪された仏画の尋常ならぬ帰還」という切り口で、事件を報道した。

 犯人たちは「某大学教授が書いた書籍を読んで、現存する高麗仏画の大部分が日本に所蔵され韓国にはほとんど残っていないという事実を知り、犯行を決心した」などと主張しており、例えば、中央日報は、「壬辰倭乱と日帝時代に日本が略奪していったものとされる『阿弥陀三尊像』など、文化財的な価値が大きい高麗時代の仏画など、古書画六点がある窃盗犯によって再び国内に搬入されたことが、検察の捜査結果判明した」と伝えている。

 事実、これまで所在が確認されてきた高麗仏画は百三十数点だが、韓国内には十三点しかなく、欧米の十七点を除けば、残り百点以上が日本にある。多くは日韓ともに高麗仏画への関心が低かった日本統治時代に日本人が廉価で買い取ったものだが、韓国では“壬辰倭乱(豊臣秀吉の朝鮮出兵)や日帝強占時期(韓国併合時期)に日本に略奪されたもの”と信じられている。そのため、手段に問題があっても、仏画を取り戻すことは一つの大義となるわけだ。

 このため、インターネット上では、この窃盗が愛国かどうかの論争が起こり、「窃盗犯たちに一億ウォン(約一千万円)の罰金を科して、褒賞金として十億ウォンを与えるべきだ」という主張まで出回った。

 ところが検察側は、(1)犯人が盗んだ四十七点のうち五点だけが高麗仏画だった(2)犯人が鑑定価格の十分の一水準の一億一千万ウォン(千百万円)で阿弥陀三尊像を骨董(こっとう)品商に販売した(3)日本でも盗んだ古書画の一部を処分して金をもうけた――ことなどから、犯人の「愛国窃盗」論は弁明にすぎないと見ており、これは韓国マスコミにも報じられた。

picture 10日、ソウル中央地検を訪問し、鶴林寺の高麗仏画返還を求めた在日2世の鄭光均さん(写真は11日撮影)
 犯人たちは、〇二年の鶴林寺(八点窃盗)だけでなく、一九九八年に大阪の叡福寺(三十二点)、〇一年に愛知の隣松寺(七点)でも文化財を盗んでおり、多くは日本で処分されている。問題の仏画にしても、最初は鶴林寺側に売り込もうとして失敗し、その後に国内で安く販売したもようなので、初めから愛国窃盗は成立しないわけだ。

 しかし、最初の報道によって国民が持ったイメージは根強く残っており、鶴林寺の仏画返還要求に対しても、世論の反応は冷たい。

 検察の追跡捜査の結果、問題の仏画は何度か転売された後、大邱地域の仏教寺院の庵(いおり)に寄贈されたことが判明したが、寺院側は返還を拒否しているという。

 法律的にみれば、仏画が盗品と知らずに購入すれば、民法上の「善意の取得」として所有権が認められるため、この場合は所持者が返還を拒否すれば返還は難しくなる。こんな法律論議だけが独り歩きしている状態だ。

 こんな中に一石を投じたのが、在日韓国人二世で鶴林寺の住職、幹栄盛さんと親しい鄭光均(チョン・グァンギュン)さん(60)。

 鄭さんは今月十日午前、単身、ソウル中央地検を訪問し、担当検事に鶴林寺を代表して仏画の返還を強く求めるとともに、記者懇談会を通して、問題の高麗仏画が一四七七年と一七〇〇年に修復された記録があり、韓国で報道されたように「壬辰倭乱(一五九二年―)や韓国併合時期(一九一〇−四五年)に略奪されたもの」ではないと強調。さらに、鶴林寺は聖徳太子が韓半島から渡来した恵便法師から教えを受けるために建てた寺であり、その後も半島の宝物がもたらされるなど韓国とのゆかりが深い寺であり、日本と韓国の両方の目を持った在日の立場からみても、「仏画を日本に返還する方が友好に役立つ」と力説した。

 これは報道され、韓国世論にも波紋を広げたが、その後も、「阿弥陀三尊像が略奪文化財かどうかを突き止めることは容易でない」(韓国経済紙)と指摘するコラムが登場するなど、一度焼き付いたイメージを転換するのは容易ではない。

 事件の初公判は先月二十二日に行われ、二人の被告が容疑事実をすべて認め検察は懲役三年を求刑した。本来、今月十九日に判決が下される予定だったが、延期される見通しだという。

 被告の犯行時の行動が具体的でなく、犯行動機も公判で「文化財を取り戻せという神の支持を受けた。神が乗り移った状態で行った行動だった」などと主張(犯人は元来、神と通じる巫俗人=ムーダン=だった)したため、関連資料を補充する必要があるためだ。また、鶴林寺側も裁判長に対する嘆願書を準備しており、今後、仏画返還をめぐるやり取りが活発になりそうだ。

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